OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

テルマエ・ロマエ(★★★☆☆)

2012/5/4鑑賞

@ミハマ7プレックス



 ヤマザキマリによる人気漫画の映画化。

 監督は、TVドラマ版『電車男』('05)などでおなじみの武内英樹。



 シネマハスラーの課題作品ということで鑑賞。原作未読。

 ハードルを下げていったせいか、わりと楽しめた。



 おそらく誰しもが、なんらかのカルチャーに嵌りたてのころに好きになって、あとになり評論化筋でボロクソに言われているのを目にしてゲンナリした経験があるかと思うのですが、自分にとってはそれが『ケイゾク』('99)と『電車男』なわけです。

 そんなわけで、恐る恐る観にいったのだけれども、これで昔の自分の感性が復権できたのかと、勝手に思ってみたり。



 まず、全体を通して、物事に対して真摯な態度で挑んでいるものの成果が出ない登場人物がその交流を通じて互いの欠点を払拭するという展開が縦糸を織り成しているのだけれども、ぼくはこういった展開が大好物なのだ。

 特に、阿部寛はコメディ俳優として天性を持っていると思う。最初は、いくら阿部寛の顔が濃いからといって、やはり本物の外国人エキストラと混じっていると、外国人には見えないなーと思ってしまうわけだ。特にこの映画の場合、同監督の『のだめカンタービレ 最終楽章(前編)』('09)と同様、日本人俳優には日本語で喋らせ、外国人俳優には吹き替えを用いるといった手法をとっているため、阿部寛のお世辞にも吹き替え向きとは言えない声質に若干の不安を感じた。この映画、大丈夫なのか?

 しかし、そういった違和感には徐々に慣れていった。

 さらには、タイプキャスティング的ではあるものの、阿部寛というのは、才能はあるものの真面目さゆえに軋轢を招いてしまう人物というのが本当によく似合う。冒頭できちんと葛藤が示されると、さあ、これからこの葛藤が同解消されていくかというわかりやすい物語上の布石たりえるのだ。

 しかもだ。この彼の真面目さがきちんと現代日本の文化交流の中でちゃんとカルチャーギャップとして笑いにつながっている。これは単なるその場限りの笑いではなく、ちゃんとコメディ然とした笑いになっていると思う。

 さらには、主人公が現代日本へタイムスリップするということについても必然性があり、かつ、これは一種の「ニュートンの林檎」に近いもので、創作活動に関わっていないわたしたちでさえも、物事が行き詰まりそれでも打開策はないかと考えているときにふといい考えが浮かぶときがあるよなーと首肯してしまった。



 また、それまではあまりいいと思わなかった上戸彩が悪くなかった。

 彼女はあまり思慮深くなさそうな喋り方をするが、それが主人公を鼓舞するにあたって、阿部ちゃんの考えすぎ具合と対比されてうまい効果をなしていた。また、彼女演じる山越真実は映画オリジナルの登場人物らしいが、主人公に惚れてラテン語の勉強をするというところが特によかった。

ラブ・アクチュアリー』('03)にもあったけれど、言語の通じない相手に恋をして相手の言語を学習するという展開にぼくは本当に弱いのです。

 あと、古代ローマに行ったときにローマの衣装を着るのだが、このときの彼女の胸の強調され具合が本当によかった。これだけでも観る価値ありと言いたい。



 欠点としては、まず、原作漫画にも言える事かも知れないが、阿部寛演じる大衆浴場の建築技師ルシウスが現代日本から浴場の技術を持ち帰り、それを古代ローマにアウトプットするという部分が面白さとなっているのだと思うが、序盤で結構この技術の再現に奴隷を用いていることが描かれるんだよね。ここはひょっとするとブラックユーモアと受け取るべきなのかもしれないが、特にジャグジーを応用したところなんか、30分くらいそれがノイズになっていた。奴隷制度の改革にはあと20世紀以上待たねばならないと知っているだけに、例えば、当時の奴隷生活も実はそんなにハードなものじゃなかったみたいな描写があったほうがよかったかもしれない。

 また、これも原作漫画の性格上仕方ないのかもしれないが、やはり現代日本でインプット→古代ローマでアウトプットの流れは短い時間で多用しすぎて中だるみが発生していた。

 あと、後半は歴史が変わってしまうかもしれないというのがサスペンス効果になっているはずなのだが、それを言い出したらルシウスが今までやってきたこと自体がバタフライエフェクト的に歴史を変えてしまってるんじゃねえの?って気がしてしまう。



 ただ、繰り返すけれども、葛藤を抱えた者同士の交流(しかもそれが国境どころか時代を超えたものとして現れる)によって、互いが壁を乗り越えるという展開は確かに感動的なので、個人的にはどうしても嫌いになれない作品であります。