OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

機動戦艦ナデシコ the prince of darkness('98/佐藤竜雄)


死のにおいがするラブコメSF



 1996年に放映されたSFアニメ『機動戦艦ナデシコ』の劇場版。アニメシリーズから3年後の世界を描く。

 劇中で「同窓会みたいなもんですな」と言われているように、若干テレビシリーズのファン以外にはついていけない部分もあるかもしれないが、一方でテレビシリーズのファンにとってはこれ以上ないギフトになっていた。


 まず、『機動戦艦ナデシコ』というシリーズについて語ると、過去のアニメやSF小説などの引用をちりばめてひとつの作品にするといった手法で、90年代的、もしくはタランティーノ的といっていいものかもしれない。

 描かれるお話としてはSFを基本幹とし、そこにラブコメ要素をまぶしている印象。時には後者の要素が多くなりすぎバランスを崩す部分もあるものの、個人的にはおおむね楽しめた。また、SF部分も非常に綿密に設定されており、そこも熱烈なファンを生む要因となっている。

 あとは演出が非常に特徴的である。ウィンドウが開いたり閉じたりするところが一番の特徴だろうか。こういった近未来感を演出する道具がある作品はそれだけで見事だと感じる。この演出によって、処理可能な速度以上で情報が繰り出され、それがまた映像的快感につながっている。


 劇場版においてもおおむねこのフォーマットは維持されている。ただし、路線としては若干シリアスよりになっている。


 とにかく印象に残るのが、主人公であったテンカワ・アキトとミスマル・ユリカの不在。主人公を務めるのはアニメシリーズ放映時より人気があったホシノ・ルリというキャラクター。

 墓地のシーンから始まることもあるのだろうが、全体を通して死のにおいを感じる。

 劇中ですでにテレビシリーズの時代が過ぎ去ってしまったものとして描かれる。あらかじめ何かが失われてしまっている。

 この劇場版でホシノ・ルリが主役を務めるのはもちろん人気を受けてというのもあるだろうが、彼女自身がテレビシリーズでは11歳ということで、これから青春を謳歌するキャラクターだったことが大きい。14歳になった彼女に改めて自身の青春物語を演じてもらいたかったのだ。

 ここが重要で、かつてのナデシコクルーを再集結させるのが彼女であるということは、彼女の役割がそれまでの意匠を次世代へ継承することだということを感じさせる。事実、彼女の後輩にあたるキャラクターとしてハリーが設定されている。

 これは、過去のカルチャー的遺産の集成で作品を作った『機動戦艦ナデシコ』というシリーズの意見と呼応している、というのはうがちすぎだろうか。


 それはともかく。

 おそらく好き嫌いは別れるだろうし、26話あるテレビシリーズは簡単には観ることはできないだろうが、はまれば大きい作品なので、興味を持った方には是非おすすめしたい。


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