シグナル〜月曜日のルカ〜(★★★☆☆)
2012/9/9鑑賞
@桜坂劇場
関口尚の小説の映画化。監督は『時をかける少女』('10)などの谷口正晃。
あらすじは、大学の夏休みに故郷に帰ってきて名画座でバイトする主人公(西島隆弘)の前に、映写技師の少女・ルカ(三根梓)が現れる。支配人(井上順)から、彼女について三つの禁止事項が言い渡される。1.ルカの過去を聞いてはいけない。2.ルカは月曜日にはナーバスになるから気をつけろ。3.ルカと恋に落ちてはいけない・・・。
一応、谷口監督の劇場デビュー作以降は全てチェックしているのだけれども、演出にもとりわけ特徴があるわけではないが、一定の水準はクリアしている職人監督という印象があった。
観る前は『ニューシネマ・パラダイス』('89)をボーイ・ミーツ・ガールものに翻案した感じなのかなと思った。
観はじめて最初は、正直つくりとしては甘いなと思わざるを得なかった。
ただ、高良健吾が出てきた辺りから軌道に乗った印象。
高良健吾はちょっと仕事を選びすぎという印象がある。失敗作に出演して存在感を示せるようになってこそ一人前の役者だとおもうだけに。
それでも、名うての監督たちと仕事してきただけあって、演技力は担保されている。
高良演じるウルシダレイジというキャラは、自己愛のあまり性格が破綻している。登場シーンから不穏さを感じさせる演技が見事。これに応える西島の演技も、観客が確かに感じ取った不穏さを彼も感じ取っているのだということが伝わってきてよかった。
ルカの過去の話などが明かされてくるパートは本当に引き込まれた。原作はもう少しミステリー的な部分が大きいらしいが、かなりラブストーリーよりになっていた。『ニューシネマ・パラダイス』かと思いきや『チェイシング・エイミー』('97)だったとは。ただ、これはうれしい誤算だった。
ちなみに、ミステリー要素の排除は、去年公開の『スノーフレーク』('11)の失敗によるところも大きいかも。ぼくの感想はこんな感じ
。
また、これを恋の話として見ると、西島と高良の体格差がうまく働くんですね。どちらもやせ形ではあるけれども、ひょろっとした印象の西島に対し、背丈のある高良を配置することでこれが超えなければならない試練であることを連想させるんです。まあ、決着のつけ方には文句あるわけですが。
ただ、ぼくがこの映画に対し思い入れを持った部分はほかにもある。
映画は24秒に1回シャッターを切るため、例えば90分の映画であっても実際に観ている時間は50分に過ぎない。残りの40分に観客は自分の思い出を観ている。
これは大林宣彦の弁である。
この映画が映写技師をテーマにしていることもあり、この言葉が思い起こさせられた。
何というか、主人公の家族の状況とか、あと兄弟の関係性とか、映画に対するスタンスとか、個人的な経験を照らし合わせやすい部分があちこちに出てきたのが、ぼくにとって忘れられない映画になりそうな理由だ。
こういった映画は、逆に完成度の低い部分が魅力になってしまうから危険だとは分かっているけれどね。
「優しいふりして本当は真実から目をそらしている」なんて、まんまぼくのことだと思った。
もちろん、文句をつけたい部分はたくさんある。
やはり映画愛を語るなら、セリフに実際の映画名をもっと盛り込んでほしかったし(主人公たちの設定から考えるとそれくらいしていても不思議ではない)、もっと映像で表現してほしかったと思う。終盤にルカが真実を長セリフで語る場面はひどすぎた。脚本ももうちょっと練ることができたのではないだろうか。
三根梓のアイドルムービーとしてもルカの設定はアウトなのだが、あそこで歩くシーンの素晴らしさはたたえざるを得ない。
つまるところ、ぼくにとっては極私的に特別な映画。それだけです。