先生を流産させる会(★★★☆☆)
2012/10/14鑑賞
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映画を見て底冷えするような恐怖を覚えたのは久しぶりだった。
実際に起こった事件をもとに作ったインディーズ作品。実際の事件では男子生徒が主犯格だったのを女子生徒に改変していることにより一部から非難を受けた。
内容はと言うと、小林香織演じるミズキをリーダー格とする女子グループは、サワコ先生(宮田亜紀)が妊娠していることを知り、気持ち悪いと思ったことから流産させることを計画する。そこにグループの一員であるルミカの母親のモンスターペアレントが絡んでくるといった内容。
最初に思ったのが、ぼくは絶対先生にはなれないなということ。
自分が教える内容について、なんでも答えられなくてはならず、かつ、何も知らない生徒にとって規範とならなくてはいけない。もちろん、そういった関係性は社会に出ると上下関係という縮図の中で立ち現われてくるのであるが、その究極型ともいえるのが、先生と生徒の関係だと思う。
「先生が殺すなんて言っていいんですか?」というセリフがまさにそれを現わしている。
内藤瑛亮監督が実際の事件からくみ取ったもののひとつが、先生という立場の危うさだと感じる。
また、彼女にいやがらせを加える女子グループについて。ミズキは画面に現れるだけでまがまがしさを感じさせて見事なのだった。
彼女たちグループや、モンスターペアレントに共通するのは、想像力の欠如だ。ミズキは、胎児を殺すということがどういう結果を引き起こすのか想像がつかないからこのような事件を引き起こしたわけだし、モンスターペアレントは先生には先生の事情があることを考えることができないからわめきたてる。実は、この映画の中でいちばん怖かったのがこのモンスターペアレントだった。
実はミズキにせよルミカの母親にせよ、複雑な内面を備えているわけではない。だから怖い。
彼女たちは複雑な内面なんて備えていない。が、それゆえに物事を複雑にして事件を引き起こし、大事にする。それに振り回されるのは内面を備えた(または備えつつある)サワコ先生やルミカであり、事件の前後で、内面のない者たちは基本的に変わらないのだ。だから、ラストの解釈もグレーとなる。
この映画を一言で現わすと「リアルすぎる『告白』('10/中島哲也監督)』ということになるのかもしれない。だが、この作品を観た後だと、教師が実質的に身動きが取れないような状態にあって、たとえ無理があろうともああいったビジランテ的カタルシスに向かうのは致し方ないことなのかもしれないと思えてしまう。彼ら彼女らは、圧倒的弱者なのだから。
個人的には、実在の事件に脚色を加えた部分でいささか倫理的にひっかかる部分があったのが難点だった。
(ネタバレ込の追記)
映画と実際の事件の最大の違いは、先生が実際に流産するか否かだ。
ぼく自身がこういった流産のエピソードが苦手というのもあるが、ここが最もひっかかった。
この映画の目的が「想像力の欠如した女生徒が自分の引き起こした事件の結果を観ることで、想像力を得る」というものであれば、作劇の都合上流産するのは致し方ないのかもしれない。
ただ、この映画内の流産は、どうも劇効果として設定されたようで、その扱いが少々居心地が悪かった。
加えて言うなら、これは実際の事件をもとにしているわけだし、演出も比較的リアリズムに寄っていることもあってか、事件の関係者への配慮というのがどうしても頭にちらついてしまう。その点で、デリカシーに欠けていたようにも思う。