OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

あなたへ(★★★☆☆)


2012/9/22鑑賞
@シネマQ


 母と鑑賞。
 とにかく、普段行く映画との観客層の違いを実感。確かに、映画館によく行く人口は年配の方が多目になる傾向があるが、この映画に来ていたのは確かに年配ではあるものの、おそらく普段映画を観に行ったりしないだろうなという層。だからちょっとマナーに問題があったりするのだけれども。ただ、他の映画だったら耳触りになるはずのおしゃべりも興味深く聞くことができた。

 さて、ひとつの映画を比較に出したいと思う。
 クリント・イーストウッド監督『グラン・トリノ』('09)
老俳優が自らのキャリアに決着をつけるにおいて、これ以上のかたちはないと思う。名作です。
 ちなみに、イーストウッドは『グラン・トリノ』撮影時78歳。高倉健はこの映画撮影時80歳。イーストウッド高倉健は学年が同じです。
 
 確かに観るべき部分が多い映画ではあるし、むしろ若い人に触れてほしいと思いつつも、残念ながら高倉健版『グラン・トリノ』とは言い難い部分がある。まあ、イーストウッドが偉大すぎるだけではあるが。

 高倉健がひとつの日本男子の在り方としてロールモデルを示しているのは事実だ。寡黙で、男らしく、責任感がある。かつての日本映画には高倉健以外にも日本男子的ロールモデルを示していた俳優は存在したのだが、皆鬼籍に入るかパワーダウンするなどしてのいていった。残ったただ一人の俳優が高倉健である。この点はイーストウッドと共通している。
 ただ、これは日本映画とアメリカ映画の違いでもあるけれども、日本映画の主流と高倉健映画は、現在お世辞にもつながっているとは言えない。だから、若い観客は観に行かない。ここが大きな違いで、クリント・イーストウッドの映画は(彼が監督業も行っていることもあって)確かに現在進行形であり、この相違が非常に悔しいと思った。

 その上で、あえて気になるのが全体的な構成。
 亡き妻の思い出を巡って旅をする先で様々な人に出会い、人々から影響を受け、影響を与える。まさに純然たるロードムービーだ。
 これがロードムービーとして完成されているという前提で語りたいのだけれども、結局このお話がまとまりすぎちゃっていて、健さんが傷をいやされて終わりというのが、すこし腑に落ちなかった。

 要は、だ。例えば『幸福の黄色いハンカチ』('77)で身勝手な武田鉄也に説教をしたように、健さんが若者に何を伝えるか、とかそういったところまで話が及んでいないように思った。
 例えば、その鉄也に当たる可能性があるのが、旅先で出会う草なぎ剛佐藤浩市、あるいは三浦貴大あたりだろうけど、健さんはこの映画内で実に受動的な印象を受ける。もちろん、健さんの聞き上手具合は確かに草なぎ剛演じるキャラクターに影響を与えるのでこれでいいのかもしれない。ただ、本当に次世代に何か伝えるだけの力は『グラン・トリノ』ほどはない。そう感じてしまった。

 長々と文句を言ってきましたが、良い映画であることは間違いありません。
 願わくば健さんはまだまだ長生きして本当に高倉健版『グラン・トリノ』と呼べる映画に出演してほしいと思います。

 大滝秀治さんのご冥福をお祈りします。