OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

言の葉の庭(★★★★☆)


新しい靴を作らなくちゃ

雲のむこう、約束の場所」「秒速5センチメートル」など、繊細なドラマと映像美で国内外から人気を集めるアニメーション作家・新海誠監督が、初めて現代の東京を舞台に描く恋の物語。靴職人を目指す高校生タカオは、雨が降ると学校をさぼり、公園の日本庭園で靴のスケッチを描いていた。そんなある日、タカオは謎めいた年上の女性ユキノと出会い、2人は雨の日だけの逢瀬を重ねて心を通わせていく。居場所を見失ってしまったというユキノのために、タカオはもっと歩きたくなるような靴を作ろうとするが……。キャラクターデザイン、美術、音楽など、メインスタッフには、これまでの新海作品とは異なる新たな顔ぶれがそろう。短編「だれかのまなざし」が同時上映。(「映画.com」より)


 レンタルDVDにて鑑賞。

 さあて、困った。
 新海誠監督の映画は『ほしのこえ』と『秒速5センチメートル』を見たことのある状態。その中で、間違いなく自分が観た範囲では一番面白かった。
 けれども、欠点と思うところもある。そしてそれは明らかに新海監督の作家性でもある。

 まず、映像。これは言うまでもなく素晴らしい。
 映像美であることはもちろんだけれども、少なくともぼくが心の中で持っている風景が目の前に映し出されたように感じた。他の人の感想を見たところ、似たような風景をもっている人は多いのではないかと感じた。
 要は、アニメーションという表現技法は細かなニュアンスを犠牲として、リリシズム等感情を増幅させて伝えることが可能な装置となっている。だからこそ、見ていてちょっと怖くもなった。ずっと浸っていたいけれど、こんなに心地よくていいのだろうかと。『おおかみこどもの雨と雪』も然りだけど、この点を嫌う映画ファンもひょっとすると多いのかもしれない。
 あと、今まではどうしても「幼い」と感じてしまった新海作品の登場人物だけれど、この作品においてはその性格設定がある程度機能していたと思う。特に、主人公の男の子は高校生ということもあって、若干の視野狭窄に陥っているがゆえの行動も起こすし、けれどもそういった経験を積んで大人になるのだということがうまく表現されていたのでは。
 ただし、もう一人の主人公であるユキノは、明言はされていないがうつ状態にあり、「うまく歩くことができない」というハンディがあるのだけれども、ここがファンタジーっぽく処理されていてこちらはうまく機能していないように思えた。
 
 そして、ここが新海作品の限界なのかなとも思った。

 例えば、長井龍雪監督のようにアニメという表現技法を用いて青春時代に登場人物を閉じ込めて、そこで生じるままならなさを描く手法だってできたはずだ。その手法をとった時、繊細な新海演出は魔法のような輝きを帯びることだろう。
 ただ、新海監督は、必ず「現実」とのつきあい方を描こうとしている。そして、その度に失敗している。
 
 すなわち、これはぼく自身が持つ問題意識とも若干重なるのだが、社会人になっても青春時代を輝かしく思うようなリリシズムを持ったまま生きていけるのだろうかということを、なんとかして描こうとしているような気がしてならない。それは彼の誠実な姿勢が出ていると思う。
秒速5センチメートル』の主人公が失職していたのも、結局はそういった側面が表れたのではないだろうか。
 ユキノのキャラクター設定には、そこから歩を進めようという意識が見られるものの、まだ折り合いが付けられていないと感じた。ひょっとするとこれは自分の問題意識による期待が先に出ているだけで、新海監督は「そんなの不可能である」という考えなのかもしれない。だとすると、あれだけ美しい風景を描いておいてそんなのひどいということになるのだけれども。
 いずれにせよ、もしこの先この問題に決着をつけてくれるのであれば、ぼくは新海監督に着いていく所存だ。

劇場アニメーション『言の葉の庭』 DVD

劇場アニメーション『言の葉の庭』 DVD