OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

藁の楯(★★★★☆)

 木内一浩原作小説を三池崇史監督が映画化。十億円の懸賞金と引き換えに殺害を依頼された凶悪犯を護送する過程を描く。出演は大沢たかお、松島菜々子、藤原竜也等。


 素晴らしいじゃん!確かにお話として強引なところはあるけれども、このお話の持つ寓意、そして三池監督の力強い演出で乗り切っている!
 仕事とのつきあい方がまずあって、そこに「もし社会通念上正しいかわからない命令にも従わねばならないか」という問いかけがあって、あとは「人の心は金で買えるのか」「自分の感情で力(権力、暴力等)を行使していいのか」等問いかけが絡み合う。誰しもどれかにはひっかかるはず。
 本当にここ最近の三池監督は演出の巧みさだけで見せることができるレベルに達していると思う。個人的には『愛と誠』もそれで乗り切っていた気がする。アート面での作家性で世界と勝負できる映画監督はいるけれど、娯楽性で勝負できるのは日本には三池監督しかいないかもなあ。ハリウッドで撮るらしいけど楽しみ。


 主要キャストはどれもあまり映画俳優としては評価が高くないけれど、活かし方がうまいなあと感嘆した。激昂する演技は無理が生じていたが。あと、藤原竜也演じる清丸は、もうちょっと卑小な悪党というのをアピールするところがあってもよかったんじゃないかと思う。清丸のキャラクターは『十三人の刺客』の稲垣吾朗にも通じるな。
 正直細かいところはいろいろ気になるんだよな。輸送計画はこんなにうまくいくかなあとは思ったし、あの人物がああも都合よく現れるだろうか。
 ただ、何度も言うようだけど演出が硬派で素晴らしい。やっぱり高速道路上のド派手な爆発シーンは上がるし、集団の怖さの演出もいい!あとは何と言ってもあるシーンではためく洗濯物の不穏さ!
 

 あと、自分だったらどうするか考えるのが楽しい作品でもある。殺さないとは思うけれど、10億(未遂でもお金が入る)という条件を提示されてはたして正常を保っていられるだろうか、とか。この映画の登場人物と同じシチュエーションに置かれたらそれでも正常を保てるかとか。正直に言えば、おかねを提示されただけなら大丈夫かもしれないが、家族を亡くしているとかそういった特殊な環境にあった場合は、自分でも正常を保てる自信はない。


 ともかく、設定・脚本の粗は気になるものの、日本の正統路線エンターテイメントとして傑作だと思います。