OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

『フィギュアなあなた』(★★★☆☆)


 これは石井隆が時々撮るワンアイディアな小品だ。つまり、『フリーズミー』('00)路線。それゆえの物足りなさは残る。


 序盤の社畜描写で心折れかけた。


 いやー、変な映画だった。おそらくは是枝裕和監督『空気人形』('09)に対する石井隆監督なりの解釈なんだと思うが、全編にわたってぶっとんでいる。柄本佑の演技のやばさ。それゆえの信用のおけなさ。そして、佐々木心音の熱演!
 まともなカットがひとつたりともないと言っても過言ではない。けれども、それが石井隆の世界観を構成しているのだから、文句のつけようがない。このあたり、デ・パルマ監督の『パッション』('12)にも通じるかも。
 例えば、本職のプロレスラー・風間ユミ演じるヨッちゃんの説得力。彼女は男性嫌悪の結果としてあの肉体を手に入れたのでしょうね。また、佐々木心音は劇中ほとんど服を着ていないのだけれども、これではっきりいって凡百のAV女優を超えることをしているなと思った。石井隆監督は『人が人を愛することのどうしようもなさ』('07)の喜多嶋舞にせよ、『ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う』('10)の佐藤寛子にせよ、良くも悪くもキャリアに影響を与えないかというレベルで脱ぎ仕事をさせるのだけれども、これは明らかにやりすぎwww


 あと、柄本佑の演じる役はロマンポルノならつれあいを泣かせるろくでなしとして機能するところだけど、この情けなさしか残っていない塩梅。これはひょっとすると『夫婦善哉』('55)的なだめ男が現代では成立しえないことを暗に示しているのかもしれない。すなわち、かつて石井隆が好んで描いてきた、ろくでもないが愛らしい男性、女性を憐れみつつも、自分も蹂躙する側でしかない男性―それは主に村木哲郎という名前をつけられていたが―の居場所はもうないのかもしれないということ。 

 石井隆監督の映画と言うのは、登場人物が独り言で状況を説明したり、さまざまな物体が明らかに作りものだとわかったりする箇所等、普通なら映画的瑕疵になるけれど、それが味になっている部分も多い。この映画ではそれが特にラストに炸裂している。本来感動的なはずなのに猥褻なものが映るあのシーン。はっきり言ってどういう感情を持てばいいのかわからなかった。ラストの屋上のシーンは感動的だけど猥褻で、かつ時代遅れな感じもある。ちょっと『東京上空いらっしゃいませ』('90)を連想した。相米監督は石井隆の脚本で『ラブホテル』('85)を撮ってるし。



 あとは主人公のフィギュアオタクという設定は掘り下げていない感じがした。ただ、井筒和幸監督にも言えることだが、そのアナクロさもしくは偏見ゆえに一端の真実を突いていて、一種の説得力が生まれているのも事実。
 石井隆ビギナーには勧められないが、とにかく、変な映画が見たい人にはおすすめ!