『千年の愉楽』(★★★★★)
昨年事故死した若松孝二監督の遺作。中上健次の同名連作短編集を映画化。出演は寺島しのぶ、高良健吾、高岡蒼祐、染谷将太等。
不謹慎な言い方だが、若松孝二監督これが遺作だなんてかっこよすぎるでしょ!ぼくはこの先が観たかったよ。
まず思ったのが、本当に画面が豊潤。よくこんなロケーションを見つけ出してきたなと思ってしまう。若松監督の近年の作品は低予算だったこともあってか、屋内の撮影等では若干の安っぽさを感じてしまうことはあった(もちろん、それも味だったが)けど、今回は実にリッチだった。
あとは、土着性ですね。血と地に縛られて、連綿と命を繋ぎながらも、ある種の呪縛からは逃れられないのかという一種の絶望、それを一種の諦念を持って見守る母性。これらを役者陣は説得力をもって演じていたと思う。やはりベストアクトは寺島しのぶでしょう。
序盤、物語に引き込む寺島しのぶの語り口は非常にゆっくりで、それが物語全体のテンポを決定する。寺島しのぶ演じるおばあはつまり命の繋がりに参加できない者として、一種の理想化された母性を体現するのだけれど、最後にその傍観者としての母性の視点を捨てる。 ここがね、本当にやるせなくて。結局この呪縛からは逃れることができないのか、どうあがいても難しいのか、と思って。この感覚は表現方法はまったく違うけれど『サウダーヂ』('11)に通じるところがあった。結局、どれだけ時代が流れても血と地の呪縛は存在する。
ただ、これは『セデック・バレ』でも感じたことだけれども、風景の美しさと民謡の調べがうまく中和してくれて映画として楽しく見ることができるようになっているんだ。また、その美しさと対比してテーマの重さも際立つといった効用もある。
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