『舟を編む』(★★★★★)
2013/11/7鑑賞(DVD)
三浦しをんのベストセラー小説を『川の底からこんにちは』('10)等で知られる石井裕也監督が映画化。辞書作りを一生の仕事として選んだ青年・馬締を松田龍平が演じる。
原作既読で鑑賞。非常に楽しめました。
いきなり私事で申し訳ないが、彼女から『舟を編む』の主人公・馬締に似ていると言われたことがある。もちろん、松田龍平に似ているわけではなく、小説に出てくる馬締に似ているという意味で。
その後、勧められて小説を読んで、確かにこれは似ているなあと思った。
さて、そんなお気に入りの小説が映画化ということだったが、監督が石井裕也と聞いて多少不安に感じた。
過去作を見る限り、テーマを声高に叫ぶ石井裕也の作風はこの作品に合っているように思えなかったから。確かに、『川の底からこんにちは』には協働というテーマが出てきたが。
しかし、その不安は杞憂に終わった。というよりも、ここまで職人監督に徹することができるとは恐れ入った。ほぼ原作に忠実に作られている。
やはり、キャスティングが成功の鍵になっている。松田龍平は『ボーイズ・オン・ザ・ラン』('10)で演じた悪役の青山のイメージが大きく、そのイメージを払しょくできたのはわりと最近になってからだったのだけれども、彼の人を寄せ付けないような感じがうまくベクトルとしてはまっていた。
・・・正直、自分を見ているようで少しムカついたことを申し述べる。
あとは、ほとんど典型的なキャスティングではあるのだけれども、脇に徹したオダギリジョーがいい味出してたな。役者陣はみんなよかった。
あと、演出がよかった。
あまり今風でない、「ダサい」感じもする演出が用いられている。例えば、予告編でも見られるけど馬締が悪夢から覚めるときにカメラがグルグル回りながらズームアップしていくあれとか。80〜90年代の日本映画を見ているようだった。いわゆる、ポストモダンの時代。
ただね、舞台にしている時代がこのあたりというのもあるし、なによりも主人公や彼を取り巻く環境がかなり古風でしょ? 宮崎あおい演じるかぐやが登場するシーンがちょっと非現実的な感じがするのもその一環がと思うし。 だから、演出は成功している。
今、「古風」と言ったけれど、この映画の素晴らしいところは確かに2013年現在と繋がっていることを常に意識させることだ。
例えば、1995年を舞台にしている時に当時のはやり言葉を辞書に取り入れようと用例採集する箇所なんかは、この辞書が現在と地続きであることを連想させる。一番それを感じさせるのは、馬締が何かを調べるときに鞄から辞書を取り出す場面、2013年に生きる者としてはどうしてもものを調べる時にスマートフォンやiPadを使って検索することを連想せざるを得ないだろう。ここは映像化することで説得力が増している場面だ。
こうやって「古風」と「今様」を行き来することで、この『舟を編む』という映画の世界をタイムレスなものにしている。表現するためには言葉を使わなくてはならないことは普遍的だということを伝えるために。
強いて言えば、前半「お仕事」パートと「恋愛」パートを同時に進めたため、一方が進んでいるときにもう一方が気にかかった。ここは小説で読んだ時にはあまり気にならなかっただけに。
ただ、小説よりもラストの余韻が感じられたのはよかった。
ひょっとしたら原作越えを果たしているかもしれない傑作。
どちらからでもお先にどうぞ。
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