OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

2013年観た映画ベスト10

 とにかく迷いました。少なくとも、節操の無さという意味では、他の追随を許さないのではないかと自負しております。
 余談だが、尊敬する映画評論家・町山智浩さんが以前自身のブログにこのようなことを書いていた。
 「何も憎めない奴に、何かが本当に愛せるか!」(谷岡雅樹『竜二漂泊1983』を読め - ベイエリア在住町山智浩アメリカ日記)。
 それで、自分はここまで108本の映画について書いてきたけれども、嫌いな映画はあまりなくて、だから自分の愛は薄いんじゃないかと少し迷っていたわけです。
 ただ、自分にも嫌いなものはある。それはスクリーンの中にはいない。
 要は、狭量で自分の世界を広げようとしない人が嫌いなのだ。
 実生活でそんな人はたくさんいた。お山の大将だから自信満々で、いつも負けてきた。
 だからせめて、映画では自分の世界を広げようとしてきたのかもしれない。
 これが、その1年の成果です。
 最後までお楽しみください。



10位 映画「立候補」
 映画ってすごいと思うのは、それまで自分が持っていた偏見を覆されたときだ。おそらく、今後もマック赤坂氏に投票することはないと思うが、見かたが多少変わったことは否めない。
 思うのは、嘲笑う者よりも笑われる者の方が尊い。この映画ではマック赤坂の具体的な政策は明らかにされないし(おそらくないのだろう)、ひょっとしてマック赤坂は単なる「選挙ジャンキー」なんじゃという疑念も首をもたげる。それでも、彼の姿が美しく感じるのは、この世界に疑問を持つことを身を呈して教示してくれているように思うからだ。二大クライマックスと言ってもいい、「対橋本戦」と「対安倍戦」。特に後者において、勝ち馬に乗っていい気になっている者の醜さと、それに対抗する者の美しさを知ったし、僕にはマック赤坂(をはじめとする泡沫候補)を笑う権利はないと感じた。観る者の胸に確かなくさびを残す傑作ドキュメンタリー。政治的になり過ぎないところもよい。



9位 横道世之介
 上映期間が終了するときに、無性に寂しくなった。まず、大学に入って1年目というふわふわした期間を選んでくれただけでも傑作だと思っている。要はこの世之介という人物は、記憶の媒体として機能しているわけで、登場人物が世之介を通して過去の自分を思い出すときに、自分の思い出がちょっとづつ入ってくるわけです。今年は久々に大学の友人に再会した経験がこの映画に重なり、少し下駄を履かせて上位にランクインさせました。



8位 シュガー・ラッシュ
 ディズニーアニメらしい糖衣にくるんでいるけれども、実はかなりハードな話。特に、ヴァネロペが迫害される様子には胸をざわつかされた。要は、誰かが疎外される中には、その人物に不都合なことをすべて背負わせて、そのことを周囲の人々は申し訳なく思っているけどそれを態度に出すと不都合を自分も背負わなくてはいけないから、いきおいアンタッチャブルにしてしまうという構造があると思うんです。それをエンターテイメントで見せてしまうだけでも、この映画は素晴らしい。だからこそ、僕個人としてはハッピーエンドでなくてはいけない話でした。大好き。



7位 世界にひとつのプレイブック
 これも賛否両論わかれてますね。
 何ていうのか、香山リカの本で「みんな元気に病んでいる」というタイトルがあるけど、最近ではネットで様々な精神病の情報を得ることが出来るので、その病気に当てはまる部分が多いと落ち込んでしまうこともある。少なくとも僕には。
 この作品は監督のデヴィッド・O・ラッセルが自身の息子が双極性障害強迫神経症を患っていることから興味を持って映画化し、その内容は精神障害ですらコメディに転じさせているものである。むろん、精神病の実態はここに描かれているように甘いものじゃないのかもしれない。
 けれども、精神病にまではいかないまでも、人々の心を脅かすもの。それは孤独であるとか、他者の理解を得られないことだとか、そういったものに対処するには他者によって差し伸べられる手が必要だということ。非常に胸を打ちました。
 あと、ジェニファー・ローレンスのおっぱい。



6位 クラウド・アトラス
 こちらも賛否両論分かれている。
 『マトリックス』の監督ということで、重厚なSFを期待する向きが多かったのが原因だと思う。6つのストーリーが並列して語られる。で、そのひとつひとつについては、正直なところ大したことない。SFとしても新しいところはほとんどない。
 けれども、僕はこの映画素晴らしいと思う。この映画、SFの最新鋭みたいな語られかたよりも、むしろ『ラブ・アクチュアリー』とかポール・ハギスの『クラッシュ』に連なる群像劇の系譜として評価されるべきじゃないのだろうか。
 シーンが移り変わると何百年も時が隔たっていて、そこにも面白さを感じるのだけど、要は、それまで信じていたものに裏切られること、それこそが成長であり進化であるということ語るためにこの方法をとっているのだ。
 確かに一部キャストが何役も演じることでリアリティを削いでいる部分もあるものの、個人的には深い感動が残った作品でした。嫌いになんかなれるものか!



5位 旅立ちの島唄〜十五の春〜
 初めて見たときに思った。ついに沖縄映画にマスターピースが現れた。観光映画でもなく、政治映画でもない、純粋な沖縄映画として。
 はっきり言って、ものすごい地味な作品です。タイトルから泣かせに来ていると思う人もいるかもしれない。実は、その真逆。確かに泣く人はいるけど、それはこっちが勝手に感情移入して泣いているだけだ。観た人ならばわかるはず。この映画は、決して泣かせようとしていない。
 あくまでも映像で登場人物に感情移入させる。それは当り前のことかもしれないが、この吉田康弘監督の演出は手堅く、仏頂面の三吉彩花(今年の新人賞!)や寡黙な小林薫の演技は、感情のドラマを牽引する。
 物語は小津安二郎の『晩春』を沖縄の離島・北大東島を舞台にアップデートしたものだ。山田洋次監督の『東京家族』よりもその精神性の継承が見てとれる。



4位 風立ちぬ
 さて、おそらくベスト10に入った作品で最も賛否両論分かれる作品だと思います。
最近ふと思ったのだが。この映画を観た時に言い様のない多幸感があった理由とは、単純に、この映画の中には自分の原風景があったからではないか、と。
 むろん、物心ついたときからジブリの映画に触れている身としては、原風景の構築にジブリが買っている役割も少なくない。けれども、仮に自分が何らかの創作をするときには、この原風景を拠り所にするほかない。大学の頃サークル活動で合唱をやっていた時に思い描いていたものにリンクする部分があったような気がした。
 うまく言語化できないけれども、この映画における飛翔*1には、そういったものを感じてしまうのです。



3位 ばしゃ馬さんとビッグマウス
 馬渕さん、元気かなあ。
 オフビートだが強烈なものを残す、すごい映画だと思います。現時点で2010年以降の日本映画では1位です。
 夢を目指す者のための話はたくさん描かれる。しかし、夢をあきらめた者のための話はほとんど描かれてこなかったのではないか。吉田恵輔監督の演出は、一種ドキュメンタリー的で、主演の2人や岡田義徳以外は無名な俳優が前に出てくることでフィクション性を薄めたり、シーンの切り替わりで説明を省略することで映画への没入を後押ししたり。それによって、この映画は単にスクリーンの向こう側だけではない、こちら側の話であることも意識されるのだ。こんな映画経験は久しぶりだったな。
 ただ、それでも陰惨な印象を残さない。むしろ爽やかな気持ちで映画館を出られる。
 それと同時に、自分の中で青春のある部分にけりがついたような気もした。



2位 パッション
ただただ最高。
 この映画を観たのは銀座の映画館TOHOみゆき座で、客席は赤で色調が統一されており、映画が始まる前からブライアン・デ・パルマの映画の中にいるようだった。
 内容は、これまたデ・パルマ映画を特徴づけるもので彩られており、気持ちいい!最高としか言えなかった。もはや理屈より生理的にホールドをかけられた。
 3位の映画とは対照的に、この映画は外の世界から完全に切り離されている。その場合、映画の中の世界がどれだけ面白く趣味に合うかで個人的評価は決まるのであって、そういった意味でこれは満点だった。ソフト化されたら何回も繰り返し見たい!



1位 ゼロ・ダーク・サーティ
 2位から10位の映画は何度も見るだろうけど、この映画は多分あと死ぬまで数えるくらいしか見ないと思う。それくらい、この映画内に流れる緊張感は強かった。
 まず、序盤の拷問シーン。これはフィクション的な見せ方は一切していない。それゆえに、公権力によって暴力が加えられていて、それが眼前にあるという事実だけで、観客は緊張せざるを得ない。そこからは常に緊張の連続、なにせ、自爆をも辞さない者たちに囲まれているのだから。
 この映画については政治的なことが取りざたされるし、そういった見方も間違いじゃないと思うけど、僕はもっと普遍的に、「仕事」を描いた物語だと思った。
 ジェシカ・チャスティンが一世一代の名演を見せたマヤという女性の背景はほとんど描かれない。それゆえに、彼女の仕事が、彼女自身とイコールとなった印象を受ける。
 それゆえに、仕事が与える影響に眼をつぶらざるを得ない欺瞞性や、結局仕事の行きつく先は空虚なのかもしれないという結論に、胸が締め付けられる思いがした。
 現代の『アラビアのロレンス』と言って差し支えない名作だと思います。



 ベスト10をまとめると



1.ゼロ・ダーク・サーティ
2.パッション
3.ばしゃ馬さんとビッグマウス
4.風立ちぬ
5.旅立ちの島唄〜十五の春〜
6.クラウド・アトラス
7.世界にひとつのプレイブック
8.シュガー・ラッシュ
9.横道世之介
10.映画「立候補」



 以上です。すべての映画に愛をこめて。
 来年もいい映画に出会えますように!
 

*1:それは、ゼロ戦が空を飛ぶことであり、演出として時間が短縮されることでもある。その飛躍に自分の思いをはせることができる