テレクラキャノンボール2013(カンパニー松尾) ★★★★☆
レンタルDVDにて鑑賞。
内容は、カンパニー松尾を中心とするAV監督たちが東京から北海道までキャノンボール(いわゆる公道レース)で順位を競い、その間に各地でテレクラやナンパを行い、その内容によって点数を競い合うというもの。
初めにヨタ話から入るが、このビデオのDiscAを観終わってDiscBに入る前にちょうどお昼時になったのでごはんを食べに行った。思いっきり影響されてカレーを*1。
で、入った食堂でヤングマガジンを手に取った。僕が良く読んでいたのは高校から大学にかけてなので10年くらい前なんだけれども、あの頃感じたヒリヒリするような感触がなくなっている気がした。それは、BE-BOP HIGH-SCHOOLや工業高校バレーボール部といった看板漫画から、古谷実の漫画に至るまで感じていた、炎天下の下でどうにもならずに彷徨して、性欲だけは持て余しているようなあの感じ。 *2
『テレクラキャノンボール』とはまさにそういった作品だ。
アダルトビデオをさも社会学的うんぬんだの、映画的うんぬんだので語る愚は承知でいたい。「だって、あなた結局アダルトビデオで抜いたでしょ?」「一発抜いた後の賢者タイムに言われても説得力無いわよ」「結局抜けるビデオが一番いいんじゃない」そういった内面の声が聞こえてきてしまうから。
や、この作品にも実用的なシーンはたくさんある。個人的には仙台ステージの色白のコなんかよかった。終盤の本職のAV女優さんのカラミは言うに及ばず。そもそも、僕はカンパニー松尾監督のビデオやその他HMJM製作のビデオを「愛用」してきたし。
けれども、あらかじめテロップで「実用には適さない可能性がある」と出ている以上、多分それだけじゃない部分がある。で、そこがあるから、僕は「カラミを早送りすることはあってもそれ以外のシーンは決して早送りしない」という通常のAVではしないことをしたわけだし。
ので、アダルトビデオについて実用性以外の箇所に言及する愚は承知の上でつらつらと書かせていただく。それをしないと僕のキャノンボールは終わらない。
まず、コンセプトから確実にフェミニストは拒否反応を示す。男性の集団が旅先でセックス(場合によっては明確に援助交際)を行うというのは、女性をモノとして扱っていると捉えられて仕方ない。
あと、この「テレクラキャノンボール」という企画の影響性を考慮すると、顔出しして出演する女性について侮蔑的な感想を持つ人も少なくないだろう。AV界の中でも特に影響力の大きいソフトに残ってしまうのだから、残念だが賢くない。
で、それは事実だ。でも、男性の大半はアダルトビデオを見るということで、それに加担している。需要があるから供給が生まれる。
こういった構造は、映画という他者性を突き付けられるメディアに乗ることで、より強調され、グロテスクさが増す*3。僕はDVDで観たけれども、劇場公開されているという事実を知っているからそう思ったのかも。
ただ、じゃあここの登場人物にとって不快感を持ったかというと、むしろ逆。
この映画のメインキャッチコピーになっている言葉は「ヤラナイ人生とヤル人生なら、俺はヤル人生を選ぶ」。
どうしてもAVを鑑賞する人間として、AV女優とヤリたいと思ってしまうことはある。特に、この10年はビジュアル的にもスタイル的にもそこいらのアイドルよりも上な女優さんが出てきている。この企画の賞品になっている新山かえでや神谷まゆがそうだ。
けれども、僕は狭義の「ヤラナイ人生」を選び、毎日ほぼ決まった時刻に職場に通う日々を過ごし、その合間にAVでつかの間の夢を見る。
では「ヤル人生」を選んでおけばよかったかというと、一概にそうも言えない。
この映画はセックスに関わる者の持つ業を描いていて、しかもそれは終盤に行くにつれてきつくなる。
前半はセックスに持ち込まれた女性たちの後ろに重い人生を観なくてはいけなくなる。後半はそれに加え、セックスがエンターテイメント化したことで行為がエスカレートしていくにつれて身をすり減らさなくてはいけないセックス産業従事者の業を見せつけられる。*4
ただ、それでも帰りのフェリーの中のドラマ、それも完璧な青春ドラマを見せられると、確かに完全に肯定はできないかもしれないが、やはりお世話になった身だし、セックスを応援しようという気にさせられる。あらかじめ自分の持つAV観やセックス観を観直させられる。
実は見事に三幕構成がよくできた作品だと思います。
あとは、いわゆる男性的なホモソーシャル空間の描き方について、美化して描いていないところ、というよりも、これが世間の縮図だと見てとることができる風に撮っているのが良いと思ったことや、さりげなく「老い」というテーマを織り込んでいること、ひょっとすると「世代交代」というテーマもあるかもしれないこと、あと、どれだけ裸になっても本当の自分を見せている気がしないAV女優という存在が一番恐ろしいかもしれないこと、など色々思った。
132分に編集した劇場版もあるそうなので、そちらも見てみたい。