『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』シリーズがコワい理由
白石晃士監督のホラーシリーズ『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』(以下『コワすぎ!』)を劇場版まで一気に見ました。
劇場版のレビューを書く前に、とりあえずシリーズの総括的なものを書きたいと思います。
去年くらいから巷(主にtwitter界隈)で『コワすぎ!』が話題に上がることが多くなった。
僕もその流れで観たのだけれど、これは確かに通常のJホラー作品とは一線を画している。
では、『コワすぎ!』がどのように特徴的な存在になっているかというと、おそらく多くの人が挙げるのが、工藤仁ディレクター(演:大迫茂生)の持つ「暴力性」ですね。
ちょっと『ソナチネ』の頃のビートたけしさんを彷彿をさせるんですが、彼がほとんどヤクザかってくらいに依頼者や、はたまた幽霊に対して暴力を行使する様は、確かに面白いし、ここがキャッチ―ととられてもおかしくない。
ただ、僕はこの部分はあくまでも副産物じゃないかと思う。
そもそも『コワすぎ!』の本当の発明部分というのは、Jホラーに人間ドラマを持ち込んだところにあるのではないか。
前述の工藤仁Dもそうだが、彼に冷静にツッコミを入れつつ(すなわち視聴者を代弁する視点)、しだいに工藤に感化されていくアシスタントディレクターの市川(演:久保山智夏)、そしてビビりながらも前代未聞の映像をちゃっかり納めてしまうカメラマンの田代(演:白石晃士)、通常のJホラーだったら物語を進める駒にしかならない彼らの関係性を深めているところがこのシリーズの発明ではないかと考えます。
あと、田代のビビり具合によってカメラが揺れることにより、視聴者に怖さを与える表現も素晴らしい。
そして、もうひとつ素晴らしいと思えるのが、このシリーズにおいて頻出する怪奇現象の裏側に、とてつもなく大きく禍々しいもうひとつの世界の存在を想像させるところ。
その巨大な存在に立ち向かうには手持ちカメラという存在はあまりに頼りなく、さらにその世界に少しでも触れたら壊れてしまう。それでも前述の通り人間ドラマに共鳴した人間としては、奇跡を祈るしかないわけです。だからコワい。
それゆえ、その「世界」の表現としてのCGは多少粗くても、ひょっとすると本当はこうなのかもしれないと思わせられるし、どんどん荒唐無稽なことが起きるたびに拍手を送りたくなる。
その意味で、やはりシリーズのひとつの到達点は『FILE-04【真相!トイレの花子さん】』になるだろう。
このビデオが出る前年に公開された映画『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』を連想させる長回し、その合間に展開される人間ドラマ、とにかく素晴らしかった。
ビデオリリースされた『コワすぎ!』シリーズの個人的な★取りは以下の通りです。
戦慄怪奇ファイル コワすぎ! FILE-01 口裂け女捕獲作戦 [DVD]
- 出版社/メーカー: アルバトロス
- 発売日: 2012/07/04
- メディア: DVD
- クリック: 21回
- この商品を含むブログ (9件) を見る
(この時点では工藤Dたちへの思い入れもそれほどないために普通のホラーに思えた。今見たら違うかも)
戦慄怪奇ファイル コワすぎ! FILE-02 震える幽霊 [DVD]
- 出版社/メーカー: アルバトロス
- 発売日: 2012/08/03
- メディア: DVD
- クリック: 8回
- この商品を含むブログ (6件) を見る
(夕子という存在の禍々しさ、演じた女優さんの力量には驚愕。そしてラストで今まで立っていた地盤を揺るがすような飛躍。シリーズでは2番目に好き)
戦慄怪奇ファイル コワすぎ! FILE-03 人喰い河童伝説 [DVD]
- 出版社/メーカー: アルバトロス
- 発売日: 2013/02/02
- メディア: DVD
- この商品を含むブログ (6件) を見る
(ホラーというジャンルを壊しにかかっている印象。鈴木との共闘、そしてラストに見える「あの顔」。ただし、それまでの怖がらせ方からは違っていたため、ちょっと戸惑ったのは事実。この感触は石井輝男監督『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』以来)
戦慄怪奇ファイル コワすぎ! FILE-04 真相!トイレの花子さん [DVD]
- 出版社/メーカー: アルバトロス
- 発売日: 2013/03/02
- メディア: DVD
- クリック: 1回
- この商品を含むブログ (6件) を見る
(これまで進めてきたジャンルの解体を大きく進め、かつ一本の作品としてのバランスも保っている奇跡のような作品。大林版『時をかける少女』を連想した)
戦慄怪奇ファイル コワすぎ! 劇場版・序章 真説・四谷怪談 お岩の呪い [DVD]
- 出版社/メーカー: アルバトロス
- 発売日: 2014/04/02
- メディア: DVD
- この商品を含むブログ (4件) を見る
(これまで比較的安全圏にいたスタッフ達にも被害が降りかかることで、侵食される怖さを描いた傑作。霊現象が登場する頻度が上がっていることや、中盤の霊媒儀式など見所は多い)