OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

『8月の家族たち』(ジョン・ウェルズ) ★★★★☆

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 レンタルDVDにて鑑賞。 
 父親の死をきっかけに集まった離れて暮らしている家族たち。しかしながら、久々に会ったはいいが普段から抱えていた不満が爆発し、家族に隠された秘密が次々と暴露されていく。その意味でこれは確かにブラックコメディなのかもしれない。しかし、同年公開された『ブルー・ジャスミン』同様、決して他人事じゃないゆえ、笑えないレベルに達している。
 ストーリーに頼りすぎている感はあるし、映像としては手堅いが特段目新しさもないものの、打ちのめされた。
 監督はエゴを主張せずに、ただ脚本を忠実に映像に落とし込んでいる。けれども、もとの物語の強度が強いので、逆に言えばそれ以外に方法がない。だから、広く人にはおすすめできる。スムーズに観ることはできるので。けれども、確かに劇薬成分も含まれている。
 タイトルにも「8月」とあるように、夏の話。最初登場するのは父親のベバリー(サム・シェパード)だが、独り言を言っているようにも思えるし画面の向こうの観客に話しかけているようにも思える。しかしながら彼は早々に物語から退場し、観客は梯子をはずされいきなり家族の中に投げ込まれる。家族が久々に集まった家にはエアコンもなく、画面からは蒸し暑さが伝わってくる。そもそも、この家はいつから変化していないのだろう。

 この映画に描かれた物語を通して、とくにあの「食卓」のシーンを通して家族が崩壊していくように見える。けれども、実のところ、とっくに壊れていて、それが表面化した場所があの食卓だったにすぎない。
 そして、家族の崩壊があそこまで加速度的だったのも、ずっと溜めこんできたからで、それを演出として示すのは、劇中で最も存在感を示すバイオレット(メリル・ストリープ)のウィッグだ。彼女は父親以外の家族の前では、自身の白髪を隠し黒髪のウィッグをつける。そして、彼女がそれを次にはずすのは、一体誰の前?
 そして、どこまでさかのぼれば崩壊が回避できたのか。それを考えると、母親・バイオレットのブーツに関する話を思い出す限り、もうこの家族はスタート時点から道を誤っていたような気さえしてくる。
 ただ、こういった先の世代から負の遺産を引き継いで、次の世代のために、さてどうする?といった問いは、「家族」というテーマだけではない、非常に身につまされる問いであるし、その意味で安易に答えを出さないのも誠実だと感じる。

 役者陣はどれもムカつくくらい素晴らしい(誉めてます)。メリル・ストリープジュリア・ロバーツもそんなに好きじゃないんだけど、自分のセルフイメージを逆手にとった演技をしているように感じる。キャスティング自体に毒がある印象。

 さて、この映画はハッピーエンドなんだろうか?はっきり言って、誰も幸せになっていない。ただ、ラストシーンに光るあるものを見ると、確かに今までは間違っていたかもしれない。さて、これからどうしていくか、とりあえず前に進もう、という、決して100%前向きなわけではない前向きさを感じる。少なくとも初見時には感じた。
 僕の両親も30年連れ添った末に、父親が亡くなった。それに、親戚同士のいさかいも経験したことある。もちろん、この映画ほどひどくはないけれども、そういった経験は誰にでもあると思われるので、やはりこの映画に描かれていることは確実に普遍性はある。
 この映画のラストに希望を感じてしまうのは、やはり僕がまだ若いからなのかもしれない。どうにもならないことをたくさん知ってしまった後には、それでも「家族」に頼らざるを得ない諦念にすら思えるのかも。
 そういった意味合いでも、数年後、数十年後に再鑑賞したい作品である。

8月の家族たち ブルーレイ&DVD セット (初回限定生産/2枚組) [Blu-ray]

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