OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

『闇のまにまに』('09/友松直之)

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 夏である。特に今年の夏は猛暑だ。そこで冷ややかな映画を紹介したい。
 90年代の日本映画には夏の香りがする。特に、あのフィルムのざらつきが、他のどの時代のどの国の映画よりも「夏」を思い起こさせる。
 僕は勝手にその感触を「夏のぬけがら」感と呼んでいる。真島昌利が1989年に出したアルバムのタイトルから拝借して。
 そして、夏といえば幽霊。


『闇のまにまに』('09/友松直之)内田春菊の漫画を原作としている。夫婦生活に倦怠感を感じている妻・彩乃(琴乃)は英会話教材の営業のパートをしていた。ある日、英会話教材のパンフレットを渡しに行くとドアごしに異常に手のきれいな女に出会う。その後、彼女は偶然会った会社の先輩(竹本泰志)と関係を持ってしまう。
 友松直之監督の名前は大槻ケンヂのエッセイで知っていた。オーケンの小説を原作に『STACY』('01)という映画を撮ったのだが、原作者でも作品が理解できないレベルに改変し、2chでdisった相手に対し「そこまで言うなら電話かけてこい」と電話番号を書き込んだという前情報しかなかったので、どれだけ破天荒な作品になっているのかと思っていたら、こういう書き方は失礼だが思っていたよりまとも、というよりもかなり出来がいい映画だった。少なくとも僕はかなり好きだ。
 公開された2009年というとすでに映画を観まくっていた時期なので、この映画に出会えていた可能性もあるということだけど、画面を見た時、フィルム撮影の質感に驚いた。確かに演出は現代的だけど、どことなく90年代の映画のような感触がする。このちぐはぐさが僕にとってはたまらなく魅力的だった。
 たぶん、だ。90年代の日本映画というのは自分にとって、少し先の憧れの世界を映像化したようなものなのだ。しかし、大人になると思っていた未来とは違ってくる。デジタル撮影の綺麗過ぎる画面には感情移入できない時もあった。だから、同時代的にこんな映画が撮られていたということに不思議な感触がした。出演していたのが何度かお世話になったこともあるAV女優の琴乃だったことは自分にとっての現代性の担保だった。


 ふと思ったのだけれども、エロいシーンに耽溺している時に急にホラーなシーンが挟み込まれるとどう思うだろう。例えば、サトウトシキ監督の『不倫日記 濡れたままでもう一度』('96)という傑作ピンク映画には幽霊が出てくるし、もちろんセックスシーンも出てくるけど、全体的にホラーというよりも怪談の要素が強いため幽霊もエロも楽しめる。こちらもいい映画なのでいつかちゃんと書いてみたい。
 一方で、この映画は2回くらいエロいシーンの途中で暴力的に幽霊を映すんですね。琴乃のボディを楽しんでいたらいきなり怖いシーンがバーンと出てくるので、ありていに言ってチ●コ縮みますね。まあ、この映画はホラーの部分も愉しむ側面があると思うので評価は低くならないけれど。あと琴乃は若干崩れかけたからだがリアルでとても良いですね。ラスト10分はピンク映画やホラー映画というジャンルから予想していたものを上回るものが画面に映る時間となっており、このエスカレートしていく映像表現が気持ちよかった。


 さて、改めて考えるとこの映画は主人公が美しい手によって破滅させられていく物語であり、その媒介となるものは手にしろ会社の先輩にしろ、それ自体は大したものではない。ただ、主人公の狂気を引き出す装置となっただけだ。内田春菊の原作は未読だが、『呪いのワンピース』など人間の肉体に根差した薄気味悪いホラーを描く人だという認識がある。女性の身体に根差したある種の恐怖というテーマは、2年後に公開される『ブラック・スワン』('11/ダーレン・アロノフスキー監督)を先取りしていたのかもしれない。
 ともあれ、去年の夏に『思い出のマーニー』('14)を楽しんだ方は同じく怪談である『闇のまにマーニー』を楽しんでみてはいかがでしょうか。