夏の終り(★★★☆☆)
解説
作家の瀬戸内寂聴が出家前の瀬戸内晴美時代に発表した小説で、自身の経験をもとに年上の男と年下の男との三角関係に苦悩する女性の姿を描いた「夏の終り」を、鬼才・熊切和嘉監督が映画化。妻子ある年上の作家・慎吾と長年一緒に暮らしている知子。慎吾は妻と知子との間を行き来していたが、知子自身はその生活に満足していた。しかし、そんなある日、かつて知子が夫や子どもを捨てて駆け落ちした青年・涼太が姿を現したことから、知子の生活は微妙に狂い始める。知子は慎吾との生活を続けながらも、再び涼太と関係をもってしまい……。主人公・知子役に満島ひかり。慎吾役はベテランの小林薫、涼太役に注目の若手・綾野剛が扮する。(夏の終り : 作品情報 - 映画.comより)
熊切監督の評価は非常に困る。
おそらく誰もがあげるであろうポイントは近藤龍人の撮影による美しい風景。衣装、美術なども昭和30年代の風俗を再現するのに一役買っていて、非常にリッチな画面が拝める。
演出部分も見事だと思うんですよね。画面の暗さがそのまま恋愛の段階を示している。どことなく、印象として白黒映画を連想させるあたり、イーストウッドの『J.エドガー』('11)に近い印象を受けた。あとは、桃にたかる蟻にはぎょっとしてしまいましたね。
全体を通して、恋愛の痛いところをついた作品だと思いました。
恋愛とはコミュニケーションの最たるものであり、それは常に相手より優位に立とうとするゲーム性を伴う。そういったゲーム性を無視していられた時期はとうに過ぎて、形骸化した愛の形。暑い時期を過ぎているから「夏の終り」というタイトルがつけられている。
ざっくりとテーマを要約したが、もちろんここから抜け落ちてしまったものもあるに違いない。正直言って、一回で理解できたと思っていない。
実は、熊切監督の作品が困るのはここで、まず極端なまでにユーモア感覚がない人で、この作品には合っていたと思うが『莫逆家族』('12)にはちょっととまどってしまった。
そして、あとから考えて、ストーリーがよくわからないところが出てくる。
今回もタッグを組んでいる宇治田隆史の手によるものだと思うが、とにかく時系列がシャッフルされる。おそらくここは登場人物の回想だとか、あとは現在との対比なんだろうなということは集中していればわかるが、後半になるにつれてもつれていく。
この混乱した感覚も計算の内なんだろうか。
ぼくには正直まだその判断がつかない。
ゆえに、熊切監督は評価に困るのだ。