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OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

夢売るふたり(★★★★★)

「男はうそをつく時、目をそらす。女はうそをつく時、じっと目を見る。」

 

 夫婦で結婚詐欺を働く男女を描いた映画。

 主演は阿部サダヲ松たか子。この二人の演技、上に引用した俗説を体現していてとてもよかったです。

 監督の西川美和さんは、テーマとして「人間関係によって傷ついたり傷つけたりすることもあるけれども、それも含めて人間を肯定したい」という思いがある方だと勝手に思っています。

 このテーマは、監督は違うけれど最近の質の高い日本映画には『悪人』('10)や『八日目の蝉』('11)『指輪をはめたい』('11)などが共通していて、ひとつの潮流があると思います。
 そして、今作はその最終回答とも言える作品になっていたのではないかと。

 特にこの監督の作品には、必ずうそをついている人(あるいはそれに近い状況にある人)が出てきて、そのうそによって周囲の人間に影響を与えていきます。
 そして、そのうそを暴く人間も必ず出てきます。それは主に警察や検察の人がそれに当たるわけですが、前作までは「この人警察になんか恨みでもあるのかな?」と思うくらい悪し様に描いていたのだけれども、今作ではその役割の人に笑福亭鶴瓶を配置することでうまくバランスをとっていたのではないかと思います。

 また、それ以外にも、うそを心底から信じる人、うそとわかっていてもそれに加担する人などが配置されているので、さまざまな立場からこの映画を観ることが可能になっています。



 思うに、人間関係とはこの「うそ(≒絵空事)」を共有する側面がどうしても出てきてしまうのではないか?それは確かに絵空事かもしれないけれど、じゃあ人間関係が無駄なものということになってしまうのか?    

いや、そうじゃない。結果として破綻してしまっても、確かに残るものがあるはずだ。

 西川監督の映画を観るといつもそんな気持ちになる。

 そもそも、映画を観るという行為がその関係性に近いのではないか。

 だとすると「真実を暴く人間」というのは批評家に当たるのか?それは困るな、ちょっと。

 ラストに映るものを観ると、ぼくが解釈する前述の西川監督のテーマも『ディア・ドクター』('09)よりもグレーゾーンな解釈になっているような気はした。

 それ以外だと、演技に関してはどの俳優も完璧に近い。
 田中麗奈は『源氏物語 千年の謎』('11)に続き一種のヒステリックな女性の役が板についていた。この映画を観たときに連想したのが『クヒオ大佐』('09)だったのだけれど、同作に出演していた満島ひかり田中麗奈はどことなく顔立ちが近い気がする。
 ただ、田中麗奈が一度退場したのちにストーリーの中心に来るのがウェイトリフティング女子選手役の江原由夏というのが挑戦的だった。ぼく、初めて観た時本職のオリンピック選手をキャスティングしているかと思った。彼女の演技メソッドはどことなくドキュメンタリー風なしゃべりといい、師匠の是枝裕和の演出を思い起こさせる。それにしても、この容姿・体型の方をシネコンでかかる映画でフューチャーするなんて他の監督ならまず考えられない。しかしそういう意識になるということに後ろめたさを感じるほど。

 演出としても、登場人物の表情から感情を推測する部分が多く、観終わった後にどっと疲れが来ました。ただしその疲れは心地よいものではあるけれど。気軽に観れる映画ではないのは確かかもしれません。

 欲を言えば、終盤が見せ場の連続になってしまったので、もう少しスマートにまとめられた気がするのが惜しかったです。松がサダヲを服の裾をつまむシーンがあって、ぼくはここで終わってもいいと思ったくらい好きなシーン、印象に残るシーンになっていた。ここにエモーションを集中させてもよかったと思う。
 また、後から考えると観客に対してフェアではないような演出や、なぜか登場するネズミなど、解釈に困る演出も出てきました。これについてはおいおい考えていきたい。



 ただ、そういった点を差し引いても、観る人や観る時期によって感じ方が変わってくる作品だと思うので興味のある方は是非。