OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

ロング・グッドバイ('73/ロバート・アルトマン)


2011/8/6鑑賞

DVD



 レイモンド・チャンドラー原作『長いお別れ』を群像劇の名手ロバート・アルトマン監督が手掛けた1973年の映画。本来50年代を舞台にした原作を70年代に置き換えたほか、独自の解釈を細部に施しているも現在では「原作のフィリップ・マーロウの雰囲気を最も忠実に再現している」という評価を受けています。

 大まかな筋としては妻殺しの汚名を着せられて自殺した友人の潔白を証明するため孤軍奮闘するフィリップ・マーロウの活躍を描くお話になっています。
 ハードボイルドミステリーとしてももちろん傑作なのは間違いないですが、あえて言ってしまいましょう。
 これは究極の「猫萌え映画」です。

 最近動物ものの映画多いですよね。
 けれども、題材にされるのは犬が多いのが実情です。犬より猫派の自分としては少しさみしいところです。
 その理由は明確で、犬は訓練次第で演出しやすいからです。
 猫に演出をつけるのがどれだけ難しいかは、トリュフォー監督の『映画に愛をこめて アメリカの夜』をご覧ください。
 しかしながら、この映画にはよく猫が出てきて、その演出も完璧になされております。一方でマーロウはよく犬にほえられますし、この点から観ても、アルトマン監督が犬より猫に愛着を感じているのは事実でしょう。
 おそらく、アルトマン監督は猫のままならぬところに複雑な愛着を感じており、自分の自由にならないものをフィルムに刻みつけることに一種マゾヒスティックな快楽を感じる方なのでしょう。

 そもそも冒頭のシークエンスからこうです。
 フィリップ・マーロウがベッドで寝ていると飼っている猫がお腹に飛び乗る。衝撃で思わず起きてしまうマーロウ。どうやら猫はお腹を空かしているらしい。
「待ってろ。今作ってやるからな。」
 マーロウはありあわせの材料で猫の餌をこしらえるが猫は見向きもしない。
「やっぱり、いつものキャットフードでなければ駄目か・・・」
 マーロウは午前3時という時間にも関わらずスーパーマーケットにキャットフードを買いに行くもそのキャットフードは置いていない。
 店員には「キャットフードなんてどれも同じですよ」といわれ、マーロウはこう一人ごちる。
「猫を飼ったことがないからそんなこと言えるんだ。」
 マーロウは仕方なく別のキャットフードを購入し、家に帰る。それからマーロウはいつも食べさせているキャットフードの空缶に買ってきたキャットフードの中身を詰め替え、猫に食べさせようとする。
 しかしながら猫はそれを見抜いてかぷいと皿から離れ、外に飛び出したのだった。

 オープニングタイトルが出るまでの10分以上もこのシークエンスが続くため最初観た時は「これハードボイルド探偵映画だよな?」と思ってしまいました。
 けれども、このシークエンスでマーロウのいやいやながらも面倒事にコミットしていかざるを得ない性格を現していて、本当に良く出来た映画だと思います。


ロング・グッドバイ [DVD]

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