OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

腑抜けども、悲しみの愛を見せろ

 吉田大八監督。2007年。出演は佐藤江梨子佐津川愛美永瀬正敏永作博美など。カンヌ映画祭新人週間出品。
 内容は、全編を通してブラックユーモアにあふれてて、だけどサトエリ演じる女優目指しているバカ女をとりまく日常は、結構痛い所ついてくるなと思った。
 ラストの佐津川の復讐はブラックだけどカタルシスを感じた。
 それで、思ったのだけれど、物語の4年前にサトエリが女優になることを反対する両親にナイフを振りかざして、それで永瀬を傷つける。恐らく既にそのときサトエリと関係を持っていた永瀬はサトエリを甘やかすことに決め、「彼女だけを必要とする」ことに決める。このことで、サトエリは自分が本当に切れ味のあるナイフだと勘違いし、女優になることにさらなる根拠なき自信をつけてしまう。
 そして、女優になる夢が一瞬叶ったかに見えて、それを佐津川演じる妹によって潰される、てか最初からなかったのだと種明かしされる。そして逆上し、佐津川をナイフで刺すが、それは映画冒頭にも出てきた偽者の、刺すと刃身が引っ込むナイフ。このシーンでサトエリは自身が偽者のオモチャのナイフに過ぎないことを宣告されてしまう。その見せ方が面白かった。サトエリが今まで出した赤い手紙がまるで血痕のように散らばっている様子も相俟って、映像としてよく見せていたと思う。十分和風化したアドモドバル?ってなくらいに。
 だけど、この映画のよさって、結局本谷有希子の原作の良さのような気がする。たとえば、橋口亮輔西川美和のような作家性はあまり感じなかった。終盤の漫画を挿入するシーンはもしかすると作家性の現れかもしれないけど、それは逆に浮いていた気がするし。原作がそもそも作家性の塊みたいなものだろうから、監督も作家性なんか入れる余地はないんだろうな、きっと。
 そんな中、永作博美がとにかくヤバイ。一件常識人で、だけどどっか変。趣味で作っている人形には狂気が表れている気がするし、やけに高いテンションはこの閉鎖された家の中で明らかに浮いている。結局、この事件において永作は基本、蚊帳の外なのだけれど、その最初から最後まで無知な傍観者であり続ける永作の演技に引き込まれた。永作がいなかったら、きっと絶望して終わっていたことだろう。
 一瞬だけ、ずっと従順な兄嫁を演じていた永作がサトエリに対して反抗的な表情をするシーンがあるのだけど、この時の永作の演技が本当にいい。