OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

天使の恋('09/寒竹ゆり)


前半はよかった。前半だけなら★4つは行く
ただ、後半がひどいねー。★1つレベル。
合わせて★2.5つ。



まずさ、佐々木希は、確実に僕たちの生活圏内には入って来ないタイプです。規格外というかなんというか。
それゆえに、設定自体も彼女に合わせてトンデモさを作っていかなければならない。
「セックスのファンタジスタ」という語彙センスはすごいな。タマフルで課題になったら確実に流行語になってるね。
あと、やはり前半は映像で登場人物の感情を表現することを行っているから、そこも好感。
佐々木希という、美貌はともかくとして演技は期待できない人を用いるには、感情に欠陥を抱えた役柄を充てるというのは正解。

ただ、後半は完全に凡作。きっと寒竹ゆり監督がやりたいことは前半に終始しているんだろうなという印象はある。だから積極的に評価はしていきたいんだが、一本の映画として観ると・・・



まず、ケータイ小説全般のテーマとして、コミュニケーションのもどかしさがある。
表現として旨く行っているかどうか、は別として、恋愛というコミュニケーションの最たるものを用いてそれを描こうという心理はどの作品にもみてとれる。ゆえに、ティーン層の共感を得るのだろうということは想像に難くない。
表現としては稚拙でも、自分の感情を重ね合わせる力ってそれくらいの世代には必ずあるし、その連なりからより良い表現が生まれることもあるのだから。

ここでは、無愛想な谷原に対し、「恋愛」ヒエラルキーの頂点にいる佐々木希がアプローチをかける。すなわち、コミュニケーションのアビリティが低い谷原に対し、「恋愛」というコミュニケーションの最たるものでのし上がってきた佐々木希がそこを補完するというところに面白さが生じているわけです。
そのため、恋愛の過程においては、たとえストーリーとしては面白くなくても、結構楽しく観れました。

ただ、佐々木希谷原章介を好きになって歴女になっていく場合、
佐々木希がそれまで援助交際を引っ張ってきたのだから→それまでのグループに属していた者は反目する
それでも佐々木希に残った者こそ本当の友達である。
とか、そういった展開にした方が、コミュニケーションの多様性を描くことができるし、自分は物語上の都合でいえばそのために局長(山本ひかる)が仲間になったのかと思ったくらいだよ。
肝心の、ヤンキー女(加賀美早紀 )の自殺の理由も結局直接佐々木希に関連するわけではなかったし。



あのヤンキー女にせよ、佐々木希にせよ、グレるようになった背景にはレイプされたことがあって、しかも佐々木希の場合には、その後妊娠して堕胎して、といったことが続いているわけです。
設定のためのトラウマを作るのにすぐレイプに頼るのは悪傾向とは思いますが、彼女らも或る意味ある種の男性による男根主義の被害者ともいえるわけで、それゆえに反逆として「援助交際」という手を用いていたわけです。
この映画に直接的には登場しないけれど、結局そういった原因を作った彼らは制裁を受けていないわけです。
石井隆作品なら制裁を受ける時もありますし、受けない時もあります。
ただ、石井隆作品は、あまりにもその被害を受ける様子が凄惨過ぎて、どのみち後味悪いわけですけども。
ケータイ小説の登場人物とまではいかないまでも、こういったマチズモの被害者は潜在的に多いのではないかなと思いました。



あとはねえ、やっぱり病気というアイテムの安易な使い方については許せないし、家族の設定が欠けているのもちょいと不気味ですよね。
それとさ、記憶喪失というアイテムを今回サスペンションとして用いているけど、結局愛の力で記憶が戻りました、ってのは禁止したほうがいいです。

ただ、珍作とは思いますよ。ティーンの恋愛を描いた作品に日本史というとんでもない異物が入っている映画なんて他にないので。

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