OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

パシフィック・リム(★★★★☆)


いいから早く怪獣とかロボットのすごいの見せてよ

解説

ヘルボーイ」「パンズ・ラビリンス」のギレルモ・デル・トロ監督が、謎の巨大生命体と人類が開発した人型兵器との壮絶な戦いを描いたVFX超大作。2013年8月11日、太平洋の深海の裂け目から超高層ビル並の巨体をもった怪物が突如出現し、サンフランシスコ湾を襲撃。「KAIJU」と名付けられたその怪物によって、わずか6日間で3つの都市が壊滅する。人類は存亡をかけて団結し、環太平洋沿岸(パシフィック・リム)諸国は英知を結集して人型巨大兵器「イェーガー」を開発。KAIJUとの戦いに乗り出す。それから10年が過ぎ、人類とKAIJUの戦いは続いていたが、かつてKAIJUにより兄を亡くし、失意のどん底にいたイェーガーのパイロット、ローリーは再び立ち上がることを決意。日本人研究者のマコ・モリとコンビを組み、旧型イェーガーのジプシー・デンジャーを修復する。菊地凛子が演じる日本人女性マコの幼少期役で芦田愛菜がハリウッドデビュー。(パシフィック・リム : 作品情報 - 映画.comより)

 とにかく話題になっているこの映画。
 個人的には、確かに面白いんだけれど、脚本の粗等があり、周りの盛り上がりほど素直には楽しめなかったというのが正直なところ。あとで述べる理由により、実は閉鎖的な作品なんじゃないかと思う。

 確かに、香港でのイェーガーとKAIJUの決闘は素晴らしかった。ジプシー・デンジャー登場のシーンはかっこよすぎて涙が出てきたくらい。そのほかにも、全体的にアクションシーンは素晴らしかった。


 ただ、正直言えば観終わった後に何も残っていない感覚がしたのね。
 何も考えずに楽しめる作品が大事だっていうのはわかるけれど・・・。


 もちろんこのアクションシーンが現在の世界最高峰レベルというのは理解している。けれども、それぞれがあくまで単体でポイント稼いでいるという感じで、麻雀で言うと役がひとつしかない印象。もちろんそれが相当ポイント稼いでいるのは事実だけれどもドラマ上の起伏に合わせることで相乗効果でアクションが映えて見えるような驚きというわけではなかった。*1

 例えば、前半でトラウマを負ったローリー(チャーリー・ハナム)がペントコスト司令(イドリス・エルバ)の一言で立ち直るけど、あまりにもそれが早すぎて、「そんなのいいから早く怪獣とかロボットのすごいの見せてよ」とでも言わんばかりにドラマ部分を削っているんじゃないかという印象を受けた。あと、チャーリー・ハナムクリストフ・ヴァルツを若くしたような印象といえば聞こえはいいけど、常に半笑いのあの感じが共感しづらかった。
 そのほかにも、森マコ(菊地凛子)が立ち直るまでのドラマとか、ローリーやペントコストとの人物の連関が性急で、ここをもっとしっかり組み立てていればあの香港バトルももっと素直に楽しめたのにと思わざるを得ない。

 このあたりの雑さが気にならないという意見が多いのは、当のアクションシーンに「今まで日本で冷遇されてきた怪獣・ロボット映画の復権がギレルモ・デル・トロ監督の手によりハリウッドで達成されている」というドラマを見る側が持っているからに他ならなくて、それはちょっと普遍性に欠けるのでは。わたしはそのドラマを共有していない。

 ただ、後半の展開には物語の展開と連動する映像に目を見張るものがあった。
 基本的に、ツッコミどころだと思われるところを指摘するのも野暮だと思われる類の映画だし、デル・トロ監督による仕事が隅から隅まで行きとどきすぎていて、観客の側で付け加えることがない。要は余白がない作品になっている。だから「盛り上がった!」とか「かっこよかった!」くらいしか言うことが出来なくなっているわけです。twitter時代だからこそ出来る盛り上がり方だと思います。
 ただ、それでも2回観ることで、ひょっとするとこういった深読みが可能じゃないかと思えてきた。
 ここから、展開に触れるのでたたみます。


 なぜ閉鎖的だと述べたかというと、実はこの映画、ずっと屋内であるとか、外に出るシーンも曇っていたり、悪天候だったり、夜間だったりして、青空や美しい自然が出てこない。さらに、イェーガーやKAIJU等巨大なものにスクリーンが埋め尽くされるので、まず印象として閉鎖的な感じを受ける。
 だが、本当に最後の最後で、一種ラブストーリーとしての着地を見せる時、やっと青空が拓ける。

 基本的にはこの映画、デル・トロ監督のOTAKU趣味をこれでもかって言うくらい詰め込みつつも、プロットとしては王道で、それも閉じた印象を受けた原因の一つ。前述の人間ドラマの薄さだって、『パンズ・ラビリンス』を見る限りデル・トロ監督ができないわけじゃない。
 ただ、この映画と『パンズ・ラビリンス』をつなぐのはまさにその構成で、あれも実はダークな世界観がずっと続いて、最後の最後でパッと開ける構成になっている。*2
 そして、『パンズ・ラビリンス』が伝えんとしていたテーマは、例え外界がどんなに辛いものであれ、妄想は自由であり、それこそが人生に彩りを添えているのだということ。
 それで、やはり『パシフィック・リム』は、一度自分の頭の中にあったものをスクリーンにすべてたたきつけた結果だと思うんです。それは、デル・トロ監督にとっての少年時代の終わり。そして、それらを出し切った次こそが、真に普遍性のある作品が出来上がるのではないかと。
 だからこそ、ぼくは『パシフィック・リム2』に今から期待しています。

*1:うまくできている作品というと、パッと思いつく限りだと『007 スカイフォール』とか『タンタンの冒険 ユニコーン号の秘密』とか『エグザイル/絆』あたりだろうか。個人的には。

*2:そのほかには、芦田愛菜は『パンズ〜』の主人公役の女の子にちょっと似ているし、赤い靴がキーアイテムになる等共通点もある。