書を捨てよ町へ出よう
松本人志が「大日本人」を撮ったときに言っていたのは、「既存のジャンルにあてはまらない」ということだった。
しかし、できた映画は、きちんと「映画」だった。確かに新しい部分はあったかもしれない。けれど、数少ない前情報と、松本がこれまでコントの枠でやってきたことを考えれば、十分予想のつくものだった。
現代は、ありとあらゆるものが出し尽くされてしまっているのかもしれない。全世界がネタ切れなのかもしれない。
けど、考えるなら、松本はあの時、寺山修司みたいな映画を撮るべきだった。
この寺山修司による長編映画第一作はすごい。冒頭からいきなり佐々木英明の東北弁によるメタな観客への呼びかけから始まり、観客のことを考えているのかいないのかわからないゆれるカメラワーク、ストーリーを無視して挟み込まれるきちがいじみた映像、JAシーザーによる通常の映画なら映像の邪魔にさえなりそうなやかましいロック、そして、主人公の情念と煩悶。しかし、バラバラにみえるそれらの要素が組み合わさってみると、ああ、映画だあ、って気分になるのだから恐ろしい。これが映画を破壊して作った映画なのではないかと思う。この映画はパンクだ。
映画を観ることは監督の頭の中を覗くことに近い。今の映画資本主義じゃ無理になっていることを、だからこそ松本にはやって欲しかった。
P.S. 寺山の映画に出てくる少しおかしく見えるけど思うがままに生きている人々は、汚れてしまっているが芯の方は純粋な、そんな印象を受ける。
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