『タモリ論』/樋口毅宏(新潮新書)
『さらば雑司ヶ谷』等で知られる作家・樋口毅宏の手によるタモリを初めとするいわゆる「BIG3」を題材にした新書。とても面白かったです。
厳密に言えば、「論」ではない。論文というにはあまりにもセンチメンタルすぎるし、論拠も徹底されていない*1。だが、そういった欠点も力技と、そのセンチメンタリズムで払拭するくらいの力がある。
樋口氏は誰の生活にもそれぞれの「笑っていいとも!」が、それぞれのタモリがあると語っている。まさにその通りだと思う。それくらい、現代に生きる日本人にとって共通の話題たりえるもの、それがタモリであり、たけしであり、さんまだ。
ぼくは昭和59(1984)年生まれで、タモリもたけしもさんまも、好き嫌いで判断するものじゃなく、ただそこにあるものだった。たけしに関しては思春期の頃に見た『キッズリターン』('96)によって大幅にその印象が刷新されることになったが、他の二人については、もはや好悪の判断が付けられるようなレベルにない。*2
カルチャーというのはどうあがいたって知識量や熱量では上の世代に敵わないので、この『タモリ論』をさらに批評的に論じることはできない。
しかしながら、ここ最近当のタモリが「笑っていいとも!」のコーナーに参加しないといった状況も増えてきていることを踏まえると、どうしてもここに書かれたことに一抹のセンチメンタリズムを持たずにはいられない。
例えば、クリント・イーストウッドの映画をほとんど見たことなくても『グラン・トリノ』('09)を見れば何か感じずにはいられないように、ぼくたちは何か大きな物語の終焉を目撃しているのではないか?
それを気付かせてくれた点で、非常に大事な書だと感じた。
強いて言うなら、タモリが行った数少ない表現活動であるレコードのリリース内容とか、あと90年代序盤にはタモリがユンケル皇帝液のイメージキャラクターだったこともあって街の至る所に道祖神のようにタモリのポップが見られたことをどこかで触れてほしかったかもしれない。結局ぼくにとってタモリが常にそこにあるものだという印象は、そこで培われたものだと思うので。
- 作者: 樋口毅宏
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2013/07/13
- メディア: 新書
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*1:それでも完全に投げていないところに樋口氏の誠実さを感じる
*2:脱線するが、ぼくに近い世代にとってはむしろとんねるずやダウンタウンやウッチャンナンチャンが自分なりに批評を下せる段階にある最初の芸人という気がする