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沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

『バケモノの子』('15/細田守)

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 結構、気を遣っている。
 2015年現在、細田守、という監督を巡る言説についてはいろいろややこしい。
 はじめに、細田守作品の持つ思想や雰囲気が苦手という人と好きという人がいて、まずここで評価が分かれる。細田守作品はこういった思想を持っているので苦手だ。いや、そうではない。といった具合に。
 次に、細田守の思想は脇に置いたとして、技術としてうまいかどうかという軸が発生する。
 最後に、細田守監督のフィルモグラフィの中での変化として位置づけられる。そこには、日本のアニメが連綿と紡いできた歴史、主に手塚治虫宮崎駿を中心とした史観だが、そこにおいてどう位置づけられるかという語られ方がある。「奴は宗師にふさわしいのか」問題が現実になっている。
 だから、はっきり言って厄介。俺は純粋に楽しんだんやー!とも言いたくなる。
 と、は、い、え。僕にとって今作の評価は少し微妙だ。確かに素晴らしい。何度か泣いた。けれども、モヤモヤは感じた。でも、細田守アンチがその点を突いてこれみよがしに批判するのを見るのはいやだ。そういった漠然とした複雑な感情が渦巻いている。つまりは、批評の時点で引き裂かれた構造がある。*1
 これがもっとポンポンと作品を発表する監督なら、まあ今回は少し微妙だったけど次は見ててくださいよ、で済むのだ。だが、多分次回作はまた3年後だろうしなあ・・・。
 以下は内容に触れる可能性もあります。


『バケモノの子』('15/細田守)細田守及びスタジオ地図の3年ぶりの作品。母親の死により親戚に引き取られそうになったところを逃げ出した少年・蓮は渋谷で一人でいるときに獣人・熊徹に声をかけられる。蓮は熊徹の後を追い、渋谷の裏にある「澁天街」と呼ばれる異形の者が揃う世界へ迷い込む。蓮はバケモノ界での名前を九太とつけられ、熊徹の弟子として鍛錬を重ねる。熊徹もまた蓮の影響でバケモノ界の「宗師」を目指す自覚が芽生えてくるのだった。
 正直に言えば脚本には穴が多い。特に大きな穴は後半になり、九太はバケモノ界と人間界を自由に行き来できるようになる。これは明らかに物語としての緊迫感を削いでいる。あと、やはり終盤になるにしたがって台詞での説明が多くなるのもマイナスポイントだろう。
 けれども、ここでふと思う。これまでの細田作品にも脚本上におけるマイナスポイントはあった。タイムリープにおける設定ミス(『時をかける少女』('06)これは細田監督自身もインタビューで認めていた)、田舎や大家族を美化した描写(『サマーウォーズ』('09)『おおかみこどもの雨と雪』('12))など。けれども、少なくとも僕は、見ている時はあまり気にならなかった。
 考えられる理由は二つ。一つは、観ている僕の側の問題。つまりは、僕の目が肥えてしまったこと。けれども、僕はやはり細田監督を擁護する立場にとりたいので、可能性の一つに今はとどめておく。
 もう一つは、作り手側の問題。僕が思うに、今回の作品では脚本の不備を吹き飛ばすほどの映像的なインパクトがなかったような気がした。例えば、『時をかける少女』でタイムリープする空間演出のように「渋谷」と「澁天街」という世界を繋いでいれば、あるいは、『おおかみこどもの雨と雪』で別々の道を選ぶことを時間経過とともに示す横移動や、あるいは雪にとっての岐路を示すカーテンの演出のような繊細な演出のマジックが発生していれば、と思わずにはいられない。クライマックスの渋谷に出てくる白鯨のインパクトも『サマーウォーズ』のラブマシーンの集積体に負けている。
 そもそも、細田監督は決してある一個人の私念を悪として描くことは極力避けてきたはず。だからこそ、ラスボスとして一郎彦というキャラクターにすべてを背負わせる展開は後退しているように思えた。仮に『サマーウォーズ』の展開に倣うなら、一郎彦を一度倒し改心させるも彼から抜け出た悪の心が暴れまわり、それを共闘により倒す流れになるはず。そうすれば夏コミにも間に合ったのに(!)。

 とはいえ、無理矢理な擁護に思えるかもしれないけど、終盤に緊迫感をそいでまで現実の渋谷という街を登場させたことは、蓮/九太が二つの世界のどちらかを選ぶということを観客に追体験させるという意図があったのではないかと考えている。だから急に違うジャンルが入ってきたことによる観客のとまどいも織り込み済みで、そこからは観客に考えさせるつくりにしたのかも、と。いずれにせよ、僕が受けた印象は「過渡期」。もしかすると細田守監督の次回作が出る頃、僕は父親になっているかもしれないし、その時には観方が変わるかもしれない。 
 結局細田監督はこの映画のラストでもどっちを選ぶということを明言しているわけじゃないからね。そういったアウフヘーベン止揚)は高畑勲監督にも通じるけど、それならばこそ次回作こそはもっと大きな包み込むものを作ってくれると、期待している。


2015/7/18@ユナイテッドシネマキャナルシティ13(福岡)
2015/7/21@シネマQ(沖縄)

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*1:これが後に述べる作品の構造ともつながってくるのだけれども