クレイジー・ハート('10)
2011/4/23鑑賞
DVD
出来は悪くないし、構成もしっかりしているし、劇中で使われるカントリーソングの数々も素晴らしい。
ジェフ・ブリッジズの演技による説得力もなかなか。 この映画の乾いた雰囲気はまさにアメリカ映画という感触でgood。
だが、許せないのが一点。 この一点により大きく点数を下げている。
僕は以前『ばかもの』(’10)という映画を観て心底震えあがった。 それはなぜかというと、この映画のアルコール依存の描写が素晴らしかったから。
『ばかもの』の主演は成宮寛隆。もちろん、ジェフ・ブリッジズとの演技の巧さは比べるまでもない。 それに、『ばかもの』という映画だって欠点がないわけではない。
しかしながら、正面切ってアルコール依存の恐ろしさに向き合っていたのは『ばかもの』の方だと思うのだ。
どちらの映画でもアルコール依存になるさしたる理由は描かれない。
『ばかもの』では多少、主人公の心の弱さみたいなものが描かれるけれども、それは誰しもが持っていることで、だからこそ観客に直接訴えかけるものを持つわけ。おまえもこうなる可能性があるぞという恐怖を。
一方、『クレイジーハート』のバッド・ブレイクのアルコール依存は、才能を持つものの苦悩とか、そういった言葉をつけることも可能だけれども、バッド・ブレイクはそれすら芸の肥やしにしてしまえるだけの強さを持っていると思うのだ。
この映画でバッド・ブレイクは恋仲だったジーン(マギー・ジレンホール)とアルコール依存がもとで別れてしまう。
それは『ばかもの』でも同様だけれども、『ばかもの』ではそれがきっかけで別れた恋人とか、あるいは一番仲の良かった友人まで離れて行ってしまう。 と、言うよりも見捨てられるといった方が適切かもしれない。
つまり、それは自分の心の弱さをアルコールに依存して逃げて、他人に迷惑をかけ続けてきたことに対する代償なわけだ。
ここで気になるのだが、『クレイジーハート』の中でバッド・ブレイクはその代償を払ってるのだろうか。
結局、ジーンともノー・サイドに収まっているし!
だから、この映画の中でのアルコール依存と、その治療の描写(グループセラピー)が「とりあえず入れて見ました」みたいな感じがして、すごく不快だった。
この『クレイジーハート』という映画がアルコール依存を中心に添えられたものではないということはわかる。 けれども、この一点を杜撰に描いているせいで、ジーンやトニーといった存在が、主人公にとってあまりにも都合よすぎる、際限なく甘やかしてくれる存在に思えてならない。
例えば、ダーレン・アロノフスキー監督の『レスラー』の素晴らしさは、主人公のプロレスラーとミッキー・ロークのキャリアがこれ以上ないくらいに重ね合わせられているところにある。そういった意味合いでいうと確かに『クレイジーハート』のバッド・ブレイクはジェフ・ブリッジズのキャリアに非常に適合している。
ただ、ジェフ・ブリッジズのキャリアって相当恵まれているように思うんだけれども・・・。これといった低迷期もないし、アカデミー賞をとれないからってすでに俳優として一定の地位を獲得してはいるし、素晴らしい作品に何本も出演している。『ビッグ・リボウスキ』(’98)とかね。あっちのほうがロクデナシ感出ていてよかった。
これを『レスラー』と同列に語るってはいけない気がする。
きっと僕が気にしすぎなのだと思おう。アルコール依存というのが個人的に決して他人事ではない問題なので。
しかしながら、いいところもたくさんある映画だと思います。
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