OKINAWA MOVIE LIFE

沖縄(宮古島)在住の映画好き。ツイッターは@otsurourevue

鴻上尚史「恋愛王」

 恋愛について語られなくなったなと思う。
 多分、ぼくのチェックが追いついてないという部分も大きいのだろうけど、今の時代、たとえばコラムだのエッセイだので恋愛について論をぶちかますような風潮が薄まった気がする。
 鴻上尚史さんは1990年出版の恋愛エッセイ集『恋愛王』のあとがきでこう述べている。

どっちを見ても、「恋愛」だらけの世の中になりました
                    鴻上尚史『恋愛王』

 そしてそれから約15年が経過した現在、メディア上で大胆に恋愛について語れるような雰囲気というのがない。それは良きにしろ悪しきにしろ、だ。むしろ恋愛が「トレンド」になっていないことで人々は指標とする恋愛がない分自分の思い通りに恋愛することが出来るって特性もあるし。
 ただ、思うに1980年代後半のバブル期ってのは、「恋愛」の時代だったのだと思う。それは、村上春樹の「ノルウェイの森」やよしもとばななの「キッチン」といった恋愛小説がベストセラーになったのに端を発しているのだろう。それから、この2作家が路線をシフトし、バブルがはじけて人々の気分に陰が差し、1990年代中盤の援助交際問題によって女性のイメージが崩れることで恋愛が語りづらい雰囲気になったのだろう。だから、ちょっと前までの純愛ブームはきっとそんな背景があってこそ美しい幻想としての「純愛」を求めたんだろう。けど、その純愛ブームでとりあげられた3作品、「冬のソナタ」「世界の中心で、愛をさけぶ」「電車男」はどれも恋愛について「深く」掘り下げたものじゃない。
 恋愛が「トレンド」になるのはいいこととは一概には言えないけれど、恋愛を深く掘り下げるような作品がもっとあってもいいんじゃないのかな。そして、きっと出てくるだろうから、もっとみんなの目に付くようにならないかな。あったほうが、少なくとも精神的な豊かさには繋がると思う。
 このエッセイは、映画や小説、詩、はては読者からもらったラブレターまで、さまざまな恋愛の局面をかたる一説を取り上げて、鴻上さん自身の恋愛論を語っている。イラストは吉田秋生
74/100

恋愛王 (角川文庫)

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